バイアグラに関するニュースバイアグラがイヌの命を救う?ヒトの薬がペットに使われる理由とは 2017.8.2 wed

浜松町第一クリニック竹越昭彦院長監修

「イヌにバイアグラを使う」と聞くと、皆さんはどんな感想を持たれるでしょうか? 多くの方は「イヌにも勃起障害があるのかな?」と想像されるでしょう。しかしこれ、実はれっきとした肺高血圧症の治療です。今回は、バイアグラなどヒト用の薬が、ペットの治療へ流用されている、その実態についてお伝えします。

ED治療薬「バイアグラ」がイヌの肺高血圧症を救う?

男性のED薬として広く知られているバイアグラ。男性にとっては勃起機能の低下を改善してくれる効果が見込めるこのお薬ですが、実はイヌの治療に用いられているのだとか。獣医師の間でバイアグラというと、イヌの肺高血圧症の特効薬と言われているそうです。

そもそもバイアグラは、狭心症といった循環器系の病気を治療する薬として開発されていたものです。しかし、臨床試験の中で勃起不全に効果があることが分かったため、開発企業であるファイザーがED治療薬として開発したという経緯があります。そう考えると、イヌの肺高血圧症に対して効果が見込めるのも自然なことでしょう。

その他にもある? ヒト用の薬がペットに使われるケースとは?

現在、ペット用に使われている薬はおおよそ2,000種類以上と言われています。そのいずれもが、以下のような手法で開発されてきました。

  • 1. ペット用の薬として臨床試験を行い開発
  • 2. ヒト用の薬を流用
  • 3. ヒト用に開発された薬をペット用に開発(転用)

つまり、動物医療において、ヒト用の薬の流用や転用は当たり前に行われているのです。以下から、その具体例を見てみましょう。

ガンの抗ガン剤治療

近年はペットの寿命が従来に比べて延びてきています。喜ばしいことである反面、起こりうるのがガンの発症です。イヌ・ネコがガンにかかった場合は、基本的に外科手術が行われます。しかし、手術だけでは取り切れないガンが存在するのは人間と一緒。そこで投薬による治療が行われるのですが、現在ペット用として存在するのはパラディアという薬のみです。選択の幅が圧倒的に狭いのが、大きな問題となっています。

ここで流用されるのがヒト用の抗ガン剤です。近年は乳がん、リンパ腫、皮膚がん、白血病にかかるイヌ・ネコが増えてきていますが、これを治療するために、複数の抗ガン剤を組み合わせるケースが増えてきているのだとか。ちなみに、以前までペットがガンになると安楽死を望む飼い主が多い傾向にありましたが、近年はできる限りの延命と治療を望む声も多いのだとか。これも、ヒト用の抗ガン剤が流用される理由のひとつになっていると考えられます。

精神疾患の治療

動物が精神疾患を引き起こしてしまった際、多くの治療では、ヒト用のSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害剤)が用いられています。これはそもそも動物の精神疾患に有効な薬がないのが原因で、流用しか選択肢がないというのが実情のようです。

生活習慣病

近年では、肥満が原因となる糖尿病といった、ペットの生活習慣病が増えてきている傾向にあります。イヌ・ネコの場合は7〜9頃に発症が多く見られ、特にメスがかかるケースが多いのだとか。この治療を行う際には、人間用のインスリン製剤や血糖降下剤が流用されているようです。

ヒト用の薬をペット用に開発し直す場合も?

前項では、ヒト用の薬がどのようにペットに流用されているのかをお伝えしました。しかし、中には元々ヒト用に作られている薬を、わざわざペット用に開発し直すといった取り組みもなされています。

これは、ヒト用の薬の場合、すでに豊富な臨床試験・実験データがあるため、開発にかける時間を短縮できるからです。さらに、特許がすでに切れているヒト用の古い薬であっても、ペット用という切り口にすることで別の価値が生まれ、新薬として発売したときに大きな利益を生める可能性もメリットに挙げられます。

特に近年は、ペットが高齢になった際に懸念される心臓病や生活習慣病に関する薬に注目が集まっています。具体的には、以下のような薬が、ペット用として新たに開発されました。名称は異なるものの、有効成分については変わらないものばかりです。

薬剤 ヒト用 ペット用
降圧剤 レニベース、ミカルディス エナカルド、セミントラ
痛み止め モービック メタカム
心不全治療 アカルディ ベトメディンラ

ペット用からヒト用への逆パターンでノーベル賞

一方で、ペット用の薬だったものをヒト用に開発し直し、大きな成果を挙げた事例も存在します。それが、抗寄生虫薬「イベルメクチン」です。

これは、そもそもイヌのフィラリア感染の予防薬として使われていた薬。蚊を媒介にした寄生虫が、イヌの心臓や肺動脈に住みつき、呼吸不全を引き起こすフィラリア症は、当時イヌの主立った死因のひとつでした。しかし、イベルメクチンの定期的な投与によって、この症状がほぼ完全に予防されるようになりました。

その後、この薬を転用した治療薬が、寄生虫によるアフリカの風土病の特効薬になります。この薬を開発した北里大学特別栄誉教授の大村智氏は、2015年にノーベル生理学・医学賞を受賞しました。

どうして人間用の薬を流用してもいいの?

ここまでご覧になった方の中には、「そもそもヒト用の薬をペットに流用してもいいものなのか?」と疑問を持たれる方も多いでしょう。確かに、医薬品メーカーとしては、ヒト用の薬をペット用として承認・販売していません。そのため、使用自体に疑問を感じる方もいらっしゃるでしょう。

しかし、実は医師には独自の処方権というものが認められています。これは、医師が自身の裁量で、未承認薬や適応外薬を患者の治療に用いられるという権利です。獣医師にもこの処方権は認められているので、ヒト用の薬の流用・転用ができるというわけです。

さらに言うと、未承認薬や適応外薬の使用は、実は人間よりもペットのほうが多く行われています。これは、イヌやネコに健康保険制度がないからです。そもそも、ペットの治療はすべてが自由診療。基本的に医療費は高くなりがちです。そのため、未承認薬を使ったとしても、費用が跳ね上がることはありません。こうした背景もあり、獣医師がヒト用の薬をペットの治療に流用するケースは多く、その1〜2割が未承認薬と言われています。

飼い主の判断はNG! 必ず動物病院を受診すること

このように、ヒト用の薬はペットにとっても有用であるケースが存在すると言えます。しかし、これはあくまで処方権のある獣医師に限られているのを忘れてはいけません。飼い主が勝手な判断で薬をペットに与えるのは大変危険なのでやめましょう。

たとえば、ヒト用の風邪薬の中には非ステロイド系抗炎症剤が含まれています。これをイヌやネコに与えると、成分を分解できず、肝炎や腎炎を引き起こす可能性が。その他の動物の場合も、不適切な抗菌剤の投与は命に関わる問題になる可能性があります。

そのため、ヒト用の薬が治療に効果的であるかどうかは、獣医師の判断が必要です。獣医師としても、学会発表や論文、オピニオンリーダーである別の獣医師から学んだ知識を基に、かなりの注意を払いながらヒト用の薬をペットに処方しています。種類ごとに安全性や用量の異なる動物だからこそ、より投薬にはリスクが伴うのです。

ペットのことを思うのであれば、自身の判断ではなく、必ず獣医師の診療・処方に従うよう心がけましょう。

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