竹越昭彦院長コラムどうしてインドでは国際特許が切れていないのにジェネリックが存在するのか?

浜松町第一クリニック竹越昭彦院長監修

インド国内では2005年まで「物質特許」が定められていなかったので、国際特許が残っている医薬品でも2005年以前から製造販売されていた薬に関しては特許の権利を保有している製薬会社に定められた費用を支払えば合法的に発売が可能になってしまっていることが理由の一つとしてあげられます。

しかし一番の理由は、国際的には非合法とも取れるインド製のジェネリックが、実は発展途上国にとっては必要不可欠だからなのです。

世界の後発薬(ジェネリック医薬品)の約20%をインドが生産していると言われており、インド製ジェネリック医薬品が世界的に急速に拡大している経緯について以下で詳しくご説明致します。

製法のみを特許対象としたインドの「1970年特許法」

インドでは、医薬品特許に関して世界的に異例な制度を取ってきました。世界各国では、研究開発した医薬品の有効成分自体に特許を与える「物質特許」とその有効成分となる新たな物質を作る方法へ与える「製法特許」、既知の物質をまったく新たな方法で使う「用途特許」を特許権として認めています。これによって他の会社が同じ薬を作れないよう特許権期間を設け、多額な費用をかけて薬の有効成分を開発した会社が、一定期間独占的に薬を販売することで研究開発に要した費用を十分に回収できるような制度を取っています。

しかし、インドでは医薬品については「物質特許」を認めないという1970年特許法を成立させました。 これによって、インド国内の製薬会社は、先進国の製薬会社が開発した薬の有効成分を、違う独自の製法で製造すれば、海外の製薬会社がインド国内で取得している製法特許権を回避でき、インド国内では合法で医薬品製造をすることが出来ました。
これは、米国や欧州などの先進国の製薬会社が販売する高額な薬を輸入する形とすると、インド国民が病気であるにも関わらず、薬の費用が高すぎるため治療に使えないという事態を防ぐための国として自国民を守るための手段でした。

そのような事情から、インドでは世界的に利用されている医薬品の有効成分を様々な方法で製造する「製法技術」が他国と比較して先行して開発され、インドの後発医薬品産業の急成長の足掛かりとなっています。

WTO加盟によってインドでも「物質特許」を導入

1995年にWTO(世界貿易機関:World Trade Organization)が設立され、インドも設立当初の1995年1月1日から加盟することで、WTO加盟国に課されるTRIPS協定(特許等の知的財産権についての協定)を遵守することが義務付けられました。猶予期限が切れる10年後の2005年に、インド国内の法律を改正し、農業、食品と化学反応生成物と共に、医薬品へも「物質特許制度」が導入されました。
しかし、特許について諸外国とは異なり、特異的な条項が盛り込まれています。

その中でも、「既知の物質について何らかの新規な形態の単なる発見であって当該物質の既知の効能の増大にならないもの、または既知の物質、の新規特性もしくは新規用途の単なる発見」については、特許として認めない「拒絶理由」としています。

つまり、すでに知られている物質を少し変化させたものや結晶の形を変更したもの、すでに発見されている物質の新たな使い方(用途特許)は特許としては認めず、現在知られていないまったく新しい物質を発見した場合のみ物質特許とするということです。

これによって、先進国の製薬会社で研究されている既存物質の形態を少し変えて新規物質とする特許がインドでは認められず、物質特許が導入された現在も、インド国内で海外の製薬会社が特許を取得できず、インドの製薬会社がジェネリック医薬品をインド国内で合法的に作りやすい状態が続いています。

インド国内の低所得者層の医薬品アクセスの確保

13億人以上の人口を抱えるインドでは、低所得者層でも医薬品を手にできるような体制を整える必要があり、安価な医薬品を必要としています。 そのためには、先進国の製薬会社から医薬品を輸入すると非常に薬の価格が高価となってしまいます。
インド国内の製薬会社が薬を製造できる状況を作るために、国の政策として、上記のような製薬会社の特許を認めないことで可能にしています。

国境なき医師団の安価なインド製ジェネリック医薬品の利用

安価なジェネリック医薬品を必要としているのは、インド国内の低所得者だけではありません。 貧困に直面している、アフリカなどをはじめとする発展途上国では、インド国内の低所得者同様に先進国の製薬会社が販売している薬を購入することが費用面から難しく、インドの製薬会社で作られている安価なジェネリック医薬品に頼っています。

インドの製薬会社が製造しているジェネリック医薬品の供給がストップすると、インド国内の低所得者に限らず数多くの国々の薬代を支払えない人々が、既に世の中で薬が開発されているにも関わらず、費用面によってその薬が利用できず治療できないという矛盾が生じるのです。

その象徴となるのが【国境なき医師団】です。名前を聞いたことがあるかもしれませんが、紛争や自然災害の被害者や貧困の多い国にて、病気やケガをしても治療費が支払えず満足な医療が受けられない人のために活動をしている非営利団体です。

発展途上国で問題になっているHIVも【国境なき医師団】にとっては治療の対象です。しかし、この治療薬を先進国と同じ製薬メーカーのものを使用すると、何しろ高額すぎて非営利団体の財政ではとても賄いきれないのでインドのジェネリックに頼らざるを得ないのです。HIV治療薬に限らず他の抗生物質など一般的な医薬品なども、【国境なき医師団】が使用する薬のほとんどはインドのジェネリックという状況です。

このような理由により、インドで物質特許が認められた2005年以降に製造販売されたジェネリックに関しても、慈善事業が絡んでいるのと、地元インド国内の製薬会社からの反発も大きいため、先発メーカーが泣き寝入りするしかない状況が今でも続いているのです。

インドでは、このような事情が、特異的な特許体制をとっている理由のひとつと言え、先進国で特許が有効な期間にも関わらずインド国内の製薬会社によって製造されたインド製のジェネリック医薬品が世の中に存在している理由です。

インド製ジェネリック医薬品の安全性

インド国内の製薬会社が製造した医薬品については、一定の信頼性があり、直ちに危険ではないと思います。 一方で、日本やアメリカのような先進国の製造管理レベルまでには達していないこともあり、インド製のジェネリック医薬品で小さなガラス片の混入やデータの改ざん等の不備が米国FDAの検査によって見つかり、非承認とされるケースが目立っています。
製造技術も進歩しているとは言え、インドの製薬会社によって品質のばらつきがあり、日本や米国のような安定した技術とまではいえません。

日本国内で、インド製のジェネリック医薬品を入手することは危険です。インド製ジェネリックと称したまったくの偽造薬が流通しており、インドの製薬会社が製造した医薬品かどうか判別することは不可能で、偽造薬であった場合には、大きな健康被害の危険性が潜んでいます。

厚生労働省も、日本国内で医薬品医療機器等法に基づいて品質・有効性及び安全性の確認がされていない海外医薬品について、強く注意喚起をしています。一般の個人が海外医薬品を輸入できる「個人輸入制度」を設けている理由は、外国で受けていた治療を日本国内でも継続する必要がある場合や、海外からの旅行者が常備薬として携行する場合などへの配慮によるものとしています。

一般の方の自己判断で使用するための医薬品等の個人輸入については、メリットよりも危険性(リスク)のほうが大きく、「外国製品によって不利益を被るのは、それを購入・使用するあなた自身や、あなたの家族であることに留意して下さい。」と日本国内で未承認の医薬品を安易に使用することに警鐘を鳴らしています。

日本国内でも、厚生労働省に認可された「ジェネリック医薬品」の販売が開始されており、個人輸入で購入することが手数料や海外からの配送料を含めると安いとは言えなくなってきました。
もし安いものがあり、少しの費用を節約できたとしても、効果がないばかりか、大きな健康被害を受けては悔やむに悔やみきれません。

本来、厚労省から認可を得た医薬品を適正に使用していたにも関わらず副作用等により重篤な健康被害を生じた場合、治療費を給付してくれる公的な制度である医薬品副作用救済制度の適用となりますが海外から個人輸入した医薬品に対しては対象外となることも付け加えておきます。

令和元年11月

院長 竹越 昭彦 たけこし あきひこ
略歴
  • 1966年 生まれ
  • 1991年 日本医科大学卒業
  • 1991年 日本医科大学付属病院
  • 1993~2002年 東戸塚記念病院 外科
  • 2004年10月 浜松町第一クリニック開院

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