統合失調症とED【勃起不全】

浜松町第一クリニック 竹越昭彦院長 監修

統合失調症は精神科の疾患の1つです。英語『schizophrenia』を日本語に訳したもので、長らくは『精神分裂病』と呼ばれてきました。しかしながら、病名に対する偏見が強いといった意見もあり、2002年に訳語を『統合失調症』とする、という決定がなされました。おそらくは、若年の方々には『統合失調症』に馴染みがあるでしょうし、ある程度年齢が上になればなるほど、『精神分裂病』に聞き覚えがあるのではないかと思います。

特徴的症状として、妄想・幻覚・まとまりのない会話や行動、感情の平板化・思考の貧困・意欲の欠如、といったものが挙げられます。

主たる治療法は、抗精神病薬による薬物療法です。基本は単剤投与ですが、十分な効果が得られない場合には、いくつかの種類の薬剤を組み合わせて投与する事もあります。

脳に器質的な障害が発生した事が原因がどうか、両論あります。また、脳内神経伝達物質の異常が起きているのは分かっていますが、その明確な病因は未だに確定されていません。有名なものとして『ドパミン仮説』がありますが、それもあくまで仮説の一つでしかありません。頭部 CT や病理学的所見においても、症状と大きな関連性は認められておりません。

風邪でイメージしてみると…風邪の原因はあくまで、風邪のウィルスに感染した事です。その結果として、鼻水が出たり、熱が上がったり、といったウィルスを排除しようとする動きが体内で起こっている訳です。

統合失調症で言えば、ドパミンの何かしらの異常が起きていることは分かっており、それに関連して妄想や幻覚といった症状が起きてくると考えられています。しかし、その根本、風邪でいうウィルスのような明確な原因、は分かっていません。

症状の説明としては様々なものがありますが、有名なものとして、

ブロイラーの基本症状

連合弛緩

個々のアイデアの間に論理的な結びつきがなくなり、何を言っているのか分からない状態のこと。


感情障害

病初期に抑うつ気分を感じるケースは多い。その後、病気が進行していくと、本来であれば何らかの感情を引き起こすような外界の刺激に対して、喜怒哀楽を感じなくなる(感情鈍麻)。
もしくは、感情・情動が急激に変化し不安定な状態に陥ることもある。


自閉

自分の殻に閉じこもり、周囲との接触が少なくなった状態のこと。感情鈍麻の結果、周囲に対する関心が薄れたために生じる。


両価性

同一の対象に対し、同時に相反する感情をもつこと。矛盾する感情を抱きますがこれを解決することが出来ず、そのまま表出されてしまう。

シュナイダーの一級症状

1. 考想化声

自分の考えが同時に他人の声となって聞こえてくること。


2. 話しかけと応答形式の幻聴

複数の他者が患者について批評しあう声が聞こえてくる。時には、患者がこの対話に参加し議論となることもある。


3. 自己の行為を指図する形の幻聴

他者が患者について指図をする声が聞こえてくる。それに従ってしまい自傷行為や他害行為を行ってしまうこともある。


4. 身体への影響体験

「他の人などから何らかの方法で自分の体に変な感じをさせられている」という体験。


5. 思考奪取

自分の考えが外部の力で奪われて消されてしまうと感じること。


6. 考想伝播

自分の考えが他人に通じて知られてしまうと感じてしまうこと。


7. 妄想知覚

突然、ある知覚に対して特別な意味づけがなされ、そのまま確信される現象。
あくまで知覚は正常であり、見えた消しゴムの形や聞こえた鐘の音はいつもと変わりません。
つまり、知覚の異常ではなく、知覚した後にそれを意味づける思考の異常です。


8. 感情や意志の領域でのさせられ体験や影響体験

何かちょっとした行為が、自分がしたのではなく他の力でさせられたと感じられる。


といったものが挙げられます。

これらは、病気の急性期に自覚することが多く、『陽性症状』と言われています。急性期が過ぎた後には『陰性症状』と呼ばれる症状が起きます。具体的には、感情鈍麻、思考貧困、意欲・自発性の低下等が挙げられます。

先ほど記載した通り、統合失調症は明確な原因が分かっておらず、また有効な検査方法も確立されていないため、診断は症状から導き出すことしか出来ません。そのため、診断基準の策定は非常に難しく、これまで、ICD や DSM といった病気/障害の分類を作成するにあたって、様々な議論がなされてきました。

1952年にクロルプロマジン(抗精神病薬)が登場するまで、持続睡眠療法・熱療法・インスリンショック療法・電気けいれん療法・前頭葉白質切断、と様々な治療法がありました。中には極めて非人道的であり、現在では全く行われていないものもあります。当初、治療の主体は鎮静がメインであり、以後の治療経過や社会復帰といった観点はさほど重要視されていなかった経緯があります。

しかしながら、クロルプロマジンの登場とともに、様々な抗精神病薬が開発されるようになり、早期介入・早期治療によって統合失調症の予後の改善が見込まれるようになってきています。

この、統合失調症の治療を大きく様変わりさせた薬物療法の中心となるのが抗精神病薬です。

現在では、クロルプロマジンなどの第一世代薬に代わり、リスペリドン、クエチアピン、アリピプラゾールなどの第二世代薬が使用されており、条件によってはクエチアピンも使用可能となっています。統合失調症を引き起こす原因として、神経伝達物質のドパミンが関連しているといわれており、それ以外にも、同じモノアミン類であるセロトニン・ノルアドレナリン・ヒスタミン、アミン類のアセチルコリンなども関連性が推定されています。

統合失調症の場合、ドパミンの神経路における働きが着目されており、ドパミンとその受容体の拮抗作用によって、症状の改善や副作用が起こるといわれています。統合失調症に利用されている抗精神病薬は、すべてドパミン D2 受容体を遮断する作用を持つのが特徴です。


脳の特定部位におけるドパミンの作用により、統合失調症の症状が変わるとされています。中脳辺縁系における過剰分泌が陽性症状を、中脳皮質系におけるドパミン作用の低下が陰性症状をそれぞれ引き起こすと考えられており、ドパミンの拮抗作用、機能回復によりこれらの症状を改善できる場合があります。

日本で従来利用されていたクロルプロマジン・ハロペリドールといった第一世代薬は、強いドパミン遮断作用を持っており、抗幻覚作用、妄想作用、催眠鎮静作用が主体であることから、急性期症状の緩和に適しているのは確かです。しかしながら、陰性症状の患者には効果が薄く、錐体外路症状、自律神経症状などの副作用を引き起こすことが問題視されていました。

そこで登場してきたのが第二世代の抗精神病薬です。第一世代の抗精神病薬と比較して最も大きな違いは「副作用」の少なさ、だと思います。もちろん、第二世代薬にも副作用はおこり得ますが、第一世代薬と比較すれば少なく、またこの事が内服アドヒアランスの向上につながっていくからです。統合失調症の治療において、早期発見・早期治療が重要なポイントであるのに付け加えて、治療を継続することが重要です。治療の中断・内服の中断から統合失調症が再燃するケースが多く、それが予後の悪化につながります。リスペリドン 、オランザピン、アリピプラゾールなどが、代表的な第二世代薬となります。

統合失調症とEDに関しては、直接的ではないかもしれませんが、関係はあると考えられています。

これまで、様々な抗精神病薬に関する説明を行ってきましたが、その多くが『ドパミン遮断作用』を持っています。この副作用として『高プロラクチン血症』を引き起こすケースも少なからずいると考えられています。高プロラクチン血症の症状として、乳汁漏出、性欲低下、勃起障害、性機能低下といったものが挙げられます。すなわち、高プロラクチン血症のためにEDが引き起こされているケースは時折みられます。


この場合の対処方法も非常に難しいです。高プロラクチン血症を引き起こす薬から他の抗精神病薬への変更が可能であれば良いのですが、その変更を行うことで精神症状が悪化してしまうことも稀ではありません。減薬も、同じように症状の悪化を招くことが多々あり、安易に行うべきではありません。幸いなことに、ED治療薬と抗精神病薬の飲み合わせはまず問題ありませんので、対処療法にはなってしまいますが、この場合にも最も選択しやすい治療法は、バイアグラ・レビトラ・シアリスといった PDE5 阻害薬による治療なのではないかと思います。

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