双極性障害とED【勃起不全】

浜松町第一クリニック 竹越昭彦院長 監修

双極性障害、または双極性感情障害とも呼ばれますが、これは、長い間『躁うつ病』と呼ばれてきた病気です。気分と活動水準が著しく乱されるエピソードを繰り返すことが特徴であり、気分の高揚、エネルギーと活動性の増大を示す場合(躁病または軽躁病)と、気分の低下、エネルギーと活動性の減少を示す場合(うつ病)があります。この両方のエピソードを繰り返す障害だと考えられています。

ところで、「うつ病」はあるのに「躁病」はないのか?とお考えになったことはありませんか?

現在のところ、躁状態のエピソードを繰り返す『躁病』というケースは極めて稀であり、どこかでうつ状態のエピソードを認めると考えられているため、

  • 躁状態とうつ状態を行ったり来たりする:双極性障害
  • うつ状態のエピソードを認める:うつ病
  • 躁状態のエピソードを認める:どこかでうつ状態になり得るので双極性障害と考える

・・・といった具合でしょうか。

双極性障害の中にも、大まかには『双極 I 型障害』と『双極 II 型障害』の2種類があるといわれています。はっきりした躁状態がある場合は双極 I 型、軽躁状態とうつ状態を繰り返す場合は双極 II 型と言われます。

うつ状態の主な症状(うつ病のエピソード)

抑うつ気分、興味と喜びの喪失、および活動性の減退による易疲労感の増大や活動性の減少に悩まされ、わずかに頑張ったあとでも、ひどく疲労を感じることが普通となってしまいます。その他、一般的な症状としては

(a) 集中力と注意力の減退

(b) 自己評価と自身の低下

(c) 罪責感と無価値観(軽症エピソードにもみられる)

(d) 将来に対する希望のない悲観的な見方

(e) 自傷あるいは自殺の観念や行為

(f) 睡眠障害

(g) 食欲不振

といったものが挙げられます。臨床像には明らかな個人差もあり、全てを満たす必要があるという訳ではありません。不安や焦燥感・精神運動性の激越が抑うつ症状よりも優勢であったり、易刺激性を認めることもあります。

そして最も重要なポイントが『少なくとも2週間の持続』が診断には必要とされていることかと思われます(症状が極めて重症で急激な発症であればこの限りでない)。

躁状態の主な症状(躁病のエピソード)

躁状態となった場合には、以下のような症状が主に表れます。

(a) 自信の状態にそぐわないほどの高揚した気分

(b) 身体的、精神的活動性の量と速度の増加

(c) 気力と活動性の亢進

(d) 著しい健康感と心身両面の好調感

(e) 社交性の増大、多弁、過度な馴れ馴れしさ

(f) 性的活動の亢進

(g) 睡眠欲求の減少

軽躁病では少なくとも数日間、躁病においては少なくとも1週間は続きます。そして躁病においては、日常の仕事や社会的活動性が多かれ少なかれ妨げられる程です。

前述の2つのエピソード、うつ病エピソードと躁病エピソードが出現するのですが、その順番は一定ではありません。

病院受診時において、うつ病エピソードしか認められていなかったため、うつ病と考えられ治療を行っていたものの、その後躁病エピソードを認めたため、双極性障害だと後々判明したというケースもあります。
躁病エピソードは多くのケースで突然に始まり、2週間から4,5ヶ月間持続します。それに対してうつ病エピソードはより長く続く傾向がありますが、持続期間の中央値は約6ヶ月で、高齢者を除いて1年以上続くことは稀とされています。

中には、1年のうちに4回以上の気分エピソードを反復する方もいます。

双極性障害は見逃されやすく、病院を受診した患者さんの実に37パーセントが、単極性うつ病と誤って診断されているとする報告もあります。前述の場合もそうですね。場合によっては、正しい診断がつくまでに、発病から10年以上を要するケースもあるといわれます。
単極性うつ病のほか、不安障害やパーソナリティ障害、統合失調症などの鑑別が難しいケースも多く見られます。

双極性障害とうつ病の診断が難しい理由としては、精神科を受診するのが、おもにうつ病エピソード時であることが挙げられるでしょう。躁病エピソードの時に受診するのは、よほどの逸脱行動がない限り受診する事は少ないと思われます。病気だと自覚するケースも少ないためです。また、問診において医師も過去に躁病の経過があったかどうかを十分に確認する必要があります。本人に自覚がない場合には家人など周りの人からも情報を入手する必要が出てきます。

見分ける際に何よりも大事な事は、繰り返しになりますが詳細な病歴の聴取だと思います。症候学的に、双極性障害と単極性うつ病を分ける意見もありますが、なかなか難しいと思います。

双極性障害は、単なるこころの悩みではありませんから、カウンセリングだけで治るようなものではありません。もちろん、心理療法も手助けにはなりますが、基本的には薬物療法が中心となります。

双極性障害には、気分安定薬と呼ばれる薬が有効です。日本で用いられている気分安定薬には、リチウム、バルプロ酸、カルバマゼピンがあります。
その他、気分安定薬であるラモトリギン(日本では難治性のてんかんに対して適応が認められています)、非定型抗精神病薬であるクエチアピン(適応外)、オランザピン、アリピプラゾールなどです。
このうち、最も基本的な薬はリチウムです。リチウムには、躁状態とうつ状態を改善する効果、躁状態・うつ状態を予防する効果、自殺を予防する効果があります。
しかし、リチウムは副作用が強く、使い方が難しい薬でもあります。リチウムを飲む時は、血中濃度を測りながら使わなければいけません。リチウムを服用してすぐの濃度は不安定なので、通常は、前の夜に服用した翌朝など、血中濃度が落ち着いた時間に採血して、血中濃度を調べます。有効な血中濃度は0.4mMから1.2mMくらいの間で、これを超えると副作用が出やすくなります。
リチウムの副作用として、とくに飲み始めに下痢、食欲不振、のどが渇いて多尿になる、といった症状が出ることがあります。また手の震えは、有効濃度で服用していても長期に続く場合があり、 なかなかやっかいな副作用です。
さらに、血中濃度が高くなり過ぎると、ふらふらして歩けなくなり、意識がもうろうとするなど、様々な中毒症状が出る場合があります。
体調が変化した時(食事や飲水ができないことが続いた時、腎臓の病気にかかった時など)には、急激に血中濃度が高くなって中毒症状が出る場合があるので、血中濃度をチェックする必要があります。また、様々なほかの薬(高血圧の薬など)との組み合わせによって、リチウムの血中濃度が急に高まったり、中毒が起きやすくなったりする場合があります。いくつか病院をかかっている場合などは、それぞれの主治医に相談したり、薬局にいる薬剤師に相談したりするのが良いと思います。

個人的には、痛み止めとして使用されている『ロキソプロフェン』ですね。これとリチウムを併せて服用するとリチウム濃度が上昇すると言われています。ロキソプロフェンは薬局での購入が可能な薬ですし、十分に注意して頂ければと思います。

リチウムなどの気分安定薬に加えて、うつ状態の時には、抗うつ薬が処方される場合もあります。しかし、抗うつ薬の種類によっては、かえって症状が悪くなってしまうこともあるので、注意が必要です。抗うつ薬は、躁状態を引き起こすことがあるので、双極性障害の方はできる限り避けたほうがよいでしょう。
はっきりしたことはわからないのですが、抗うつ薬によりアクティベーションシンドロームと呼ばれる、かえって焦燥感などが強まって悪化してしまう状態が起きやすいのではないか、と疑われています。うつ状態で病院に行った時に、過去の躁状態について話をしそこなったという場合は、こうした可能性について注意を払うことができません。うつ病として治療を受けているけれど、過去に躁状態や軽躁状態があったかもしれないと思う人は、必ず医師に伝えてください。

精神科の治療は、副作用との戦いです。精神疾患には有効な治療が多くあるのですが、どれも副作用があるものばかりです。とくに双極性障害の治療薬であるリチウムの副作用は、けっして軽いものではありません。
しかし副作用のない薬はなく、双極性障害の治療薬は限られています。「副作用が出たから、この薬は合わない」とやめてしまうと、せっかく回復できる可能性があるのに、これをみすみす失っていることになってしまいます。薬には副作用があることを前提として、自分の病気のコントロールのために、どのように副作用と折り合いをつけながら治療していこうか、という姿勢で臨むことが大切です。

双極性障害では、うつ状態にある場合には、性欲なども減退し、性行為自体に興味がなくなるか性行為が億劫になることが見受けられます。しかし、躁状態となると性欲が急激に増すこともあります。
性欲が減退しているうつ状態の際には、性行為自体に興味が湧かないため、EDになっていることに気がつかないこともありますが、一転、躁状態となり性欲が急激に増した際には、双極性障害の治療に使われる薬の副作用や性的刺激の神経伝達がうまくいかず、EDを自覚することとなります。ED症状の自覚が出た場合には、双極性障害の治療をしている主治医や当院医師にご相談ください。

料金表・
診療時間
郵送処方 アクセス
・TEL