竹越昭彦院長コラム日本のED患者数
浜松町第一クリニック竹越昭彦院長監修ED(Erectile Dysfunction)という言葉は、ここ日本でも一般にかなり浸透してきました。皆さんも、一度は耳にしたことがあると思います。一方で、その症状についてはまだまだ正しく理解されていないのが現状です。多くの人は、「一切ペニスが勃起せず、SEXができない状態」だと考えがちですが、正しくは「勃起が十分でないために、満足に性行為が行えない状態」のことを指します。
実はこの誤解、ひと昔前に使われていた「インポテンス(=性的不能)」という言葉が原因の一つと考えられます。1992年には、「不能」という意味を持つインポテンスは人格を傷つけるとし、勃起不全をより正確に表す「ED」を用いるようになりましたが、以前のイメージがいまだに根強く残っているのです。
つまり、EDとは「まったく勃起しない」という重症だけを指すのではなく、「たまに勃起しない」「勃起はするが十分に硬くならない」「勃起状態が持続しない」「勃起して挿入はできても、持続せず途中で抜けてしまう」といった症状も指します。別のコラムではEDの初期症状である「中折れ」について解説しましたが、勃起はしてもSEXを最後まで行うことができない中折れ状態だとしても、れっきとしたEDなのです。
2019年11月に当院にて行った国内の男性2,000人を対象に行ったED有病者数調査では、男性20~79歳におけるEDの有病者数を全国推計すると、たいていの場合性交可できる軽度EDは約1,411万人、ときどき性交ができない中等度EDは約720万人、および毎回、性交に十分な勃起が得られない完全EDは約680万人、中等度型と完全型を合わせると、深刻なEDに悩む成人男性は約1,400万人ということがわかりました。
年代別の割合は以下の通りです。
軽度ED | 中等度ED | 完全ED | 中等度+完全 | |
---|---|---|---|---|
20代 | 26.07% | 8.93% | 5.71% | 14.64% |
30代 | 28.61% | 7.72% | 5.82% | 13.54% |
40代 | 31.31% | 11.73% | 5.89% | 17.62% |
50代 | 31.08% | 20.68% | 13.16% | 33.84% |
60代 | 35.94% | 20.70% | 20.92% | 41.62% |
70代 | 23.64% | 21.52% | 38.82% | 60.33% |
20~79歳(合計) | 29.90% | 15.25% | 14.45% | 29.70% |
30~79歳を対象(有効回答:1,104人)に実施された1998年の調査によると、軽度EDは1,380万人、中等EDが870万人、完全EDの患者が260万人。中等度ED以上は1,130万人でした。少子高齢化の影響もあり軽度EDと中等度EDが減り完全EDが著しく増えています。以下のグラフは年齢別のED有病者数の割合を21年前のものと比較したものです。見ての通り、完全EDが増えたのは高齢者が増えたからだけではなく、20~30代の若年層のEDが増えていることがわかります。中等度以上の深刻なEDの悩みを抱えている人は20~30代で7人に1人、40代で6人に1人、50代で3人に1人、60~70代合わせると2人に1人という計算になります。
わが国におけるEDの疫学とリスクファクター 丸井英二 医学のあゆみ 201(6): 397-400, 2002.
2000年に行ったEDに関するアンケート調査(全国の30~79歳既婚男女3854人が対象)でも、約3割の男性が「EDの自覚がある」と答え、そのほとんどが性生活に満足していないことが明らかになっています。一方で、実際に医療機関に相談する人はとても少ないのが現状です。実際に相談した人はおよそ90万人で、ED患者数のわずか4.8%でしかありません。これは、ED治療先進国のアメリカと比べて10分の1という低水準です。
では、なぜ日本人男性はEDの自覚があるにもかかわらず医療機関を訪れないのでしょうか?そこには「日常生活にさほど影響がない」「そもそも性行為に関心がない」「恥ずかしいから」などの理由があるようです。しかし、本当に性行為に関心がない場合は別ですが、EDは放置すると必ず悪化します。これについては改めて解説しますが、日本人男性の多くはEDの悩みから解放されるチャンスを自ら放棄し、泥沼に足を踏み入れているとも言えるのです。
男性の多くは「死ぬまで男でいたい」「死ぬまでSEXをしたい」と願っていることでしょう。事実、ファイザーの調査(2009年実施)でも、40代の61.1%、50代の62%、60代以上の57.3%が、1か月に1回以上SEXをしていることがわかっています。そんな‟生涯現役“でいたい男性の前に立ちはだかるEDをいかに克服していくか――。それが、幸せな性生活を送り続けるための鍵となるのです。
- 1966年 生まれ
- 1991年 日本医科大学卒業
- 1991年 日本医科大学付属病院
- 1993~2002年 東戸塚記念病院 外科
- 2004年10月 浜松町第一クリニック開院