非定型うつ病
非定型うつ病

テーマ非定型うつ病と ED【勃起不全】

非定型うつ病とは?

非定型うつ病について、現在も諸説あり様々な意見が交わされています。そのため、多くの方が誤解や勘違いをする原因にもなっているのではないかと思います。

この説明が理解の助けになればと思います。

まず、DSM-IV-TR の気分障害の項目における『非定型の特徴の特定用語』から引用させていただきます。(ICD-10 において非定型うつ病は採用されていない)


Atypical Features Specifier 非定型の特徴の特定用語

現在のうつ病エピソードの最近2週間に以下の特徴が優勢である時、または気分変調性障害の最近の2年間にこれらの特徴が優勢な場合に適用させる

A.気分の反応性(現実の、または可能性のある楽しい出来事に反応して気分が明るくなる)

B.次の特徴のうち2つ(またはそれ以上)

(1)著名な体重増加または食欲の増加

(2)睡眠過剰

(3)鉛様の麻痺(手や足の重い、鉛の様な感覚)

(4)長期間に渡る、対人関係の拒絶に敏感であるという様式(気分障害のエピソードの間だけに限定されるものでない)で、著しい社会的または職業的障害を引き起こしている。

C.同一エピソードの間にメランコリー型の特徴を伴うもの、または緊張病性の特徴を伴うものの基準を満たさない。


以上になりますが、少し難しいですね。

普通であれば、ここで上記の症状をより具体的に説明し、それに当てはまる・当てはまらない、で非定型うつ病かどうか、といった話になるのですが…まずは、非定型うつ病の歴史から考えていく事としましょう。

非定型うつ病概念は、それまで神経症あるいはパーソナリティの病理と見なされてきて精神療法の対象となっていた(電気けいれん療法(ECT)や三環系抗うつ薬(TCA)は無効とされた)軽症慢性うつ状態群の一部に、モノアミン参加酵素阻害薬(MAOI)の効果が確認された事がその始まりです。
この概念に対して、様々な症候学的な意見がまとめられ、非定型うつ病に対する疾患論が生まれたのです。

それまでの症候学においては、神経症やパーソナリティ障害に含まれると考えられていた群が、MAOI が効果的であったため違う病気(非定型うつ病)として説明するために、その群に共通する症状を定義付けしていく、といった具合です。

※ちなみに、症候学(しょうこうがく)とは、患者さんの示す様々な訴えや診察所見を定義・分類して意味づけを与える方法論の事です。


この定義付けが様々な研究グループによってなされました。中には相容れない部分もあり、昨今の非定型うつ病に対する混乱の原因の一つとも言えます。

当初は、軽症で慢性経過をとる非内因性うつ状態のうちで、MAOI が特異的に奏功する病態、 とされました。この概念においての定型うつ病とは、TCA や ECT が奏功する内因性うつ病のこと、となります。
症状としては、不安を主要特徴とするものや、非定型の植物症状(食欲、体重、睡眠、性欲の増大)があり、発症年齢が早いことや女性に多いこと、外来・軽症、自殺企図がまれ、非双極性、非内因性、精神運動症状の変化が小さいこと、などが挙げられていました。
その後の研究の中で、単極性に限ると考えられていた概念が双極性のものも含む、といった具合に広がり、内因性うつも含む様になり、慢性のものに限らず急性のもの、軽症に限らず重症例も含むように…とその概念が広がって行きました。
概念の広がりとともに、様々な病態が非定型うつ病に含まれてしまうようになっていきました。

以下に DSM-IV-TR に記載された部分を少し詳しく記載します。


非定型うつ病の症状

気分の反応性

良いことがあれば気持ちが良くなり、逆に悪いことがあれと気持ちは沈むのは、健常者に置いても起こり得ることです。これだけであれば、疾患の特徴とはなり得ません。もう少し細かく説明すると、『気分の非反応性』という病的な症状がない、という事になります。
定型うつ病であれば、ほとんど毎日の抑うつ気分が持続しており、気分の反応性が認められない病的状態にあります。非定型うつ病では、こういった状態は認めず、気分の反応性がある、という事になります。
すなわち、自身に対し良いことがあったり、好きな事をしている時は、うつ 症状が軽くなったり、消えたりすることもあります。逆に嫌なことがあるとささいな事であっても気分がふさぎ落ち込んだり、身体が動けなくなったりします。

…が、この解釈も決定したものではありません。以下に続く過剰反応性の一部という意見もあれば、無関係とする意見もあり、必要性を重視しないという意見もあります。


著名な体重増加または食欲の増加、睡眠過剰

定型うつ病であれば、食思不振と不眠が起こるため、上記とは全く逆の状態になります。この点も非定型うつ病との大きな違いになってくると考えられます。


鉛様の麻痺(手や足の重い、鉛の様な感覚)

手足・全身が鉛のように重くなってしまったように感じる症状。ひどく気分が落ち込んだ時(気分反応性)に現れます。通常の疲労感、倦怠感と違い、全身に極度のだるさがでるため、起きていること自体困難になります。上記でも書きましたが、一緒に過眠も伴う事が多いので、ずっと横になって動けない状態になってしまう事が多いです。


長期間に渡る、対人関係の拒絶に敏感であるという様式
(気分障害のエピソードの間だけに限定されるものでない)で、著しい社会的または職業的障害を引き起こしている。

人から自分への否定的な言動に対して激しく敏感に拒絶反応(落ち込み・ひきこもり・けんか・口論)してしまう症状。他人の通常の行動でも、本人の解釈によっては、侮辱・軽視・批判されたと捉え、拒絶反応を起こす事もあります。


非定型うつ病の原因

原因という表現がまた、誤解を生むので好きではないのですが…
前述の通り、非定型うつ病の根本の定義は『非内因性うつ状態』である事から分かるように、ストレスを始めとした外的要因によってうつ状態となる病態の事です。
ですので、『ストレスが原因で非定型うつ病になる』といった表現は厳密には正しくないかと思われます。非定型うつ病自身が、『ストレスが原因でうつ状態になる病気』ですので。
原因は、他の精神疾患と同様、不明です。


非定型うつ病をどう考えるべきか

様々な非定型うつ病の病像が提唱されてきていますが、大まかにまとめると3種に分類されます。

(a) 若年発症の軽症慢性うつ状態で、対人関係上の拒絶に敏感な女性に多く、病的なうつ状態とパーソナリティ傾向との区別が困難な群

(b) 発症年齢性別を問わず、周期性反復性の急性うつ状態(その多くは双極性障害)であり、過眠や過食など逆の植物神経症状と脱力感を示す群

(c) DSM-IV の非定型うつ病概念から a と b を差し引いた群

以上の3種となります。

この中では、やはり a 群こそがその起源から現在に至るまで「定型的な」非定型うつ病群を構成していると考えられます。そしてこの a 群は、非定型うつ病という概念的枠組みをもたない場合には、しばしば境界性・演技性あるいは回避性パーソナリティ障害と診断される病態です。

非定型うつ病概念のメリットとしては、a 群に対する治療法の指針として(MAOI が有効であるという点)大きな意義を持つと考えられます。
しかしながら、DSM-IV の非定型うつ病の診断基準の通り、現在の非定型うつ病とは a+b+c といった具合に拡大する方向にあるのも事実です。
こういった中で、非定型うつ病概念、そして非定型うつ病の診断の意義はどこにあるのか、と考えされられます。
前述の通り、非定型うつ病という概念がなかった場合、非定型うつ病の病態はパーソナリティ障害や双極性障害として診断される病態なのだと思います。
とある患者様の病態を説明するのに、非定型うつ病として、パーソナリティ障害として、双極性障害として、どの説明を行うのが望ましいのか、といったポイントですが…
当たり前ですが、その患者様の病態を説明するのに最も適した方法を採用するのが一番です。そして、何が最も適しているのか、という点がこの問題の根深い所なのですが…
簡単に言えば、「うつ病」という名前が広く知れわたるようになったので、病名の宣告としては非定型うつ病がもてはやされているということなのだと思います。
患者様の病態を考えて双極性障害やパーソナリティ障害として説明する方が病態の説明としては理にかなっていたとしても、患者様自身・そして患者様の周りにいる人にとって 、「(非定型)うつ病」という「よくわからないけどうつ病らしい」という説明の方が簡単で受け入れやすいのだと思います。この病名をつけるほうが、パーソナリティの考察などせずに済みますし、医療者側としても「付けやすい」病名になっているのだと思います。

個人的には、より患者様の病態が説明できるやり方が良いと思います。すなわち、パーソナリティ障害か非定型うつ病なのか、といった2択の議論自体に全く意味がないことだと思います。


非定型うつ病と性機能

非定型うつ病による ED 症状

上記にある通り、非定型の植物症状(食欲、体重、睡眠、性欲の増大)を認める場合があります。性欲亢進を認めるため、ED 症状を認めるケースはあまり多くないとは思いますが、前述の通り非定型うつ病の概念は広がってきているため、ED 症状を自覚する方も中にはいらっしゃると考えられます。


うつ病治療薬による薬剤性 ED

非定型うつ病に対して MAOI が奏功するという報告は海外でありますが、日本では保険治療として認められていません。そのため、治療薬としては抗うつ薬や抗不安薬、気分安定薬、抗精神病薬などが使用されることになるかと思います。
その際には、副作用として薬剤性 ED が疑われる薬剤もあり、注意が必要です。抗うつ薬や抗不安薬、気分安定薬、抗精神病薬などとED 治療薬との併用に関しては問題ありませんので、その点は大丈夫です。