前立腺肥大(BPH)とED|前立腺がんとの違いは?

浜松町第一クリニック 竹越昭彦院長 監修

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前立腺の代表的な病気として、「前立腺肥大」と「前立腺がん」が挙げられます。

前立腺肥大は良性疾患で、主因は加齢に伴うホルモン環境の変化です。80代では組織学的に肥大所見が非常に高頻度(90%近く)と報告されていますが、すべての方に症状が出るわけではありません。前立腺が大きくなると尿道が圧迫され、頻尿・残尿感・尿勢低下などの症状を引き起こします。また、骨盤内の血流や神経にも影響し、ED(勃起不全)の合併がみられることも少なくありません

一方、前立腺がんは早期の自覚症状に乏しいことが多いものの、進行により尿道や神経・血管への影響で排尿障害やEDが現れる場合があります。「前立腺肥大」と「前立腺がん」は別の病気であり、診断には血液検査でPSA値の測定などが用いられます。

また、前立腺肥大や前立腺がんの外科的手術・放射線治療では、勃起に関わる神経や血管への配慮が重要です。現在は神経温存手術が一般的で、術後に一時的な勃起機能低下があっても時間とともに回復する例があります。必要に応じてPDE5阻害薬などの薬による治療やリハビリが選択肢になります。

神経や血管(神経血管束)の断裂・切除、または広範な損傷が生じた場合には、術後に勃起機能が大きく低下したり、勃起すること自体が難しくなることもあります。治療の目的や方法、神経温存の可否、術後の回復見込みについては、事前に主治医へ確認しておくと安心です。

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男性の泌尿器に関する病気の中でも、特に多いのが前立腺肥大症です。前立腺肥大は、通常は栗の実ほどの大きさである前立腺が加齢とともに肥大する状態で、日本人男性の50歳で約30%、60歳で約60%、70歳で約80%、80歳では約90%に組織学的所見がみられるとされ、その患者数は約108万人と厚生労働省「患者調査2020年」で推計されています。

前立腺は尿の通り道(尿道)を取り囲み、同時に精液を構成する「前立腺液」を分泌する役割も担います。肥大すると尿道が圧迫され、頻尿・残尿感・排尿困難のほか、尿の勢いが弱くなる「尿線細小」や、尿が二股に分かれる「尿線分裂」、急に我慢しにくくなる「尿意切迫」などの排尿症状が現れます。重症化すると尿が出なくなる「尿閉」につながることもあります。こうした症状を総称して「下部尿路症状(LUTS)」と呼びます。

かつては前立腺肥大とED(勃起不全)は無関係と考えられていましたが、現在では関連性があることが示唆されています。背景には、骨盤内の血流低下自律神経バランスの変化慢性炎症などの要因が考えられており、前立腺肥大の治療でEDが改善する例も報告されています。

前立腺肥大によって起こるEDにも、バイアグラなどのED治療薬は、性器海綿体への血流を改善しますので、非常に高い効果を発揮します。

前立腺肥大の治療薬と性機能(ED・射精)

前立腺肥大の治療薬には、排尿障害を和らげる効果のものと、原因物質の生成を抑えて、前立腺を小さくする薬があります。

α1遮断薬

(タムスロシン/シロドシン/ナフトピジル 等)

前立腺・膀胱頸部・尿道の平滑筋のα1受容体をブロックして緊張をゆるめ、尿道の通りをよくする働きの薬。

  • 勃起機能:薬の服用で、EDを直接悪化させるエビデンスは限定的です。
  • 射精機能:射精量低下・逆行性射精など射精障害の報告があります。(シロドシンで比較的起こりやすい傾向)
p>代表的な薬剤:ハルナールD(タムスロシン)、ユリーフ(シロドシン)、フリバス(ナフトピジル)

5α還元酵素阻害薬

(デュタステリド)

前立腺肥大の原因物質であるDHT(ジヒドロテストステロン)がテストステロンから変換されるのを抑え、前立腺体積を縮小させる働き。AGA(男性型脱毛症)治療薬ザガーロの成分でもあります。

  • 性機能:前立腺肥大の原因物質であるジヒドロテストステロンの生成を抑える働きで、前立腺を縮小させ排尿障害を長期的に改善。ED・性欲低下・射精障害が一定割合で報告されています。

代表的な薬:アボルブ(デュタステリド)

PDE5阻害薬

(タダラフィル5mg/日)

PDE5を阻害してcGMPを増やし、前立腺・膀胱頸部・尿道の平滑筋を弛緩させ、尿道の通りを改善する働きの薬。ED治療薬シアリスの有効成分でもあります。

  • 勃起機能:ED治療薬の成分でもありますので、ED症状を改善する可能性がありますが、1日上限5mg服用のため、ED改善効果は限定的です。なお、前立腺肥大症でタダラフィルを服用している場合でも、ED治療薬との併用は禁忌(禁止)ではありませんが、作用が強くでる可能性がありますので十分な注意が必要です。ED治療薬の併用については、医師に十分確認しましょう。

代表的な薬:ザルティア(タダラフィル)

同じ前立腺の病気でも、前立腺がんは早期には自覚症状に乏しいことが多く、排尿障害やED症状が出ない場合もあります。がんが進行して尿道を圧迫したり、神経・血管(神経血管束)へ影響が及ぶと、排尿症状やEDが現れることがあります。

前立腺がんの治療は、主に手術(前立腺全摘)、放射線治療、ホルモン療法(ADT)などが選択されます。ADT(アンドロゲン除去療法:Androgen Deprivation Therapy)とは、男性ホルモン(アンドロゲン)の作用を抑制することで前立腺がんの増殖を抑える治療法です。

手術では、病状によっては神経温存が可能ですが、切除範囲や牽引・熱損傷などの影響で勃起機能が低下することがあります。放射線治療では、時間の経過とともに血管・神経の障害が蓄積し、治療後しばらくしてからEDが目立つケースもあります。ホルモン療法は性欲の低下や夜間勃起の減少などを通じて勃起機能に影響します。

勃起に関わる神経や血管が傷つくと、術後に勃起機能が大きく低下したり、勃起が得られない状態が続くことがあります。現在はQOL(治療後の生活の質)に配慮した神経温存手術が一般的で、条件が整えば6〜24か月かけて徐々に回復していく例もありますが、回復の程度は年齢・術式(片側/両側温存の可否)・併用療法・基礎疾患などで異なります。

術後のリハビリテーションとして、PDE5阻害薬(例:シルデナフィル〈バイアグラ〉等)を適切に用いて血流を促し、陰茎海綿体の線維化を抑える考え方があります。陰圧式勃起補助具(ポンプ)の併用や、反応が不十分な場合は日本国内では未承認ですが陰茎海綿体注射(ICI)の選択肢もあります。

リハビリや薬物療法でも十分な改善が得られない場合は、陰茎海綿体注射(ICI)を検討します(国内未承認)。治療の目的・神経温存の可否・合併症の頻度・回復見込みについては、事前に主治医と具体的に確認しておくと安心です。

前立腺全摘術の後は精液の排出(射精)は起こりません。精液は主に精嚢と前立腺から分泌されるためです。オーガズムの感覚は残ることもありますが、性機能全体(性欲・オーガズム・勃起)についても術前に説明を受けましょう。

前立腺肥大症以外でも、下部尿路症状(LUTS)とEDが併存することは少なくありません。排尿障害がある男性では、EDを合併する頻度が相対的に高いことが報告されています。

背景として、生活習慣病(高血圧・糖尿病・脂質異常症・メタボリックシンドローム)が関与します。これらは血管内皮機能の低下や慢性炎症、酸化ストレスを通じて骨盤内の微小循環を悪化させ、自律神経の不均衡も招きやすく、LUTSとEDの双方に影響します。

例として、高血圧では夜間頻尿や尿勢低下を訴える方が多く、糖尿病では血糖上昇に伴う浸透圧利尿で「多飲・多尿」が起こりやすくなります。さらに糖尿病が進行すると神経障害(自律神経・末梢神経)により膀胱の収縮が弱くなり、残尿感や頻尿などの排尿トラブルが出現しやすくなります。

こうした生活習慣病は、もともとEDの重要なリスクファクターでもあります。血管障害は陰茎海綿体への血流を低下させたり、神経障害を介して神経性EDにつながることもあります。LUTSとEDが併存する場合は、生活習慣の見直しと治療を含めた総合的な対応が必要となります。

利尿薬や抗コリン薬などの一部薬剤は排尿症状を、β遮断薬や一部抗うつ薬は性機能を悪化させる、薬の副作用(薬剤性)の可能性があります。服用中の薬の見直しについては主治医・薬剤師にご相談ください。

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